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神戸地方裁判所 昭和45年(ワ)1063号 判決

原告 綾部和人

右法定代理人親権者父 綾部素雄

右訴訟代理人弁護士 木下元二

同 浜田耕一

同 西村忠行

右訴訟復代理人弁護士 小牧英夫

同 原田豊

被告 神戸市

右代表者市長 宮崎辰雄

右訴訟代理人弁護士 安藤真一

同 奥村孝

同 小松三郎

右訴訟復代理人弁護士 石丸鉄太郎

主文

被告は原告に対し金一五七九万二五三六円およびこれに対する昭和四四年八月五日から支払済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り、原告において金五〇〇万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

事実

(一)  当事者の申立

(1)  原告

「被告は原告に対し金一八四六万七一三六円およびこれに対する昭和四四年八月五日から支払済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(2)  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」との判決を求める。

(二)  当事者の主張

(1)  原告

(イ)  原告は、満六歳であった昭和四四年八月四日午前八時ごろ、神戸市長田区房王寺町二丁目一七番地先の自宅前道路(以下本件道路と称する)上で遊んでいたところ、右道路南端の防護柵(以下本件防護柵と称する)を越えて約四メートル下にある兵庫県立夢野台高等学校(以下本件高校と称する)の校庭に転落し、頭蓋骨陥没骨折等の傷害(以下本件傷害と称する)を負った。

(ロ)  本件道路は被告の管理にかかるものである。

(ハ)  前記事故(以下本件事故と称する)は、本件道路の管理に瑕疵があったため、発生したものである。すなわち、

(a) 本件道路は幅員約四メートルで東西に延び、その南端は本件高校の校庭に接しており、その境界は昭和三五年ごろまで、同校のコンクリート塀(高さ二メートル)で区切られていたが、最近の宅地造成による盛土、道路舗装等により次第に本件事故現場付近の路面が高くなってきたので、同高校において前記境界のコンクリート塀をつぎ足し、約四メートルの高さにしたが、路面は益々高くなって、本件事故当時においては、遂に右コンクリート塀の高さと路面の高さが同程度になっていた。そのため、本件道路の路面と本件高校の校庭との落差は、四メートルにも達する危険な状態になったので、住民の要求により、被告は暫定的に右高校と接する本件道路南端に高さ約八〇センチメートルの鉄パイプの本件防護柵を設置したが、その後再び路面が高くなり、本件事故現場付近では、右防護柵の高さは路面から約五〇センチメートルになり、危険防止には殆ど役に立たないどころか却って、人の転落を誘発し易い状況になっていた。

(b) 本件事故現場付近は、住宅密集地域であって、子供の遊び場が全然なく、付近居住の子供達は、本件道路を遊び場所としていた。

(c) 本件事故前一、二年間に、本件道路で遊戯中の幼児が、本件防護柵を越えて本件高校の校庭に転落し負傷するという事故が四、五件続発していた。

かかる状況を総合すれば、本件防護柵は、人、特に幼児の転落事故防止という観点からは、極めて危険な構造を有していたことが明らかであり、付近の住民からも、被告に対し、転落事故防止のために、完全な防護柵を設置するよう繰返し陳情がなされていたにもかかわらず、被告は本件防護柵をそのまま放置して、本件道路の管理者として付近の住民の転落事故等が起らぬよう本件道路を安全な状態に管理する義務を怠ったものであって、その管理に瑕疵があったというべきところ、本件事故は当該瑕疵によって発生したものである。

従って、被告は原告に対し、国家賠償法第二条第一項に基づき、原告が本件事故によって蒙った損害の賠償をすべき義務がある。

(ニ)  原告の蒙った損害

(a) 原告は、本件傷害につき、入院ないし通院して治療を受け、現在も通院治療中であるが、本件事故以前は性格や知能上に異常が認められず、普通の健康児であったにもかかわらず、本件傷害により、重度の脳損傷を受け、知能は低下し、痴呆状態が続き、性格は極めて狂暴性を帯び、親や兄弟との間においてさえも、意思の疎通を欠くようになったが、かかる精神異常と性格変化は、今後も治癒される見込は絶無であり、原告としては、その生涯を廃人に近い状態で送らねばならず、その後遺症は自動車損害賠償保障法施行令別表の第一級の「精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に該当し、労働は全く不可能であり、労働能力喪失割合は一〇〇%である。

(b) 逸失利益 金一二七九万二七四〇円

労働省大臣官房労働統計調査部賃金統計課作成の「昭和四四年賃金構造基本統計調査報告」によると、全労働者中の男子平均月間給与は金五万八〇〇〇円、従って年間給与は金六九万六〇〇〇円、また、全労働者の平均年間の賞与その他の特別給与額は金一三万四九〇〇円であるから、その平均年間総収入は合計金八三万九〇〇円となる。そして、一般平均人の稼働期間は、二〇歳から六〇歳までの四〇年間とするのが合理的であるから、右四〇年間を就労可能年数とし、前記平均年間総収入を基準にして、その間の総収入からホフマン式年別計算法により、年五分の中間利息を控除して、本件事故当時の現価を求めると、金一二七九万二七四〇円になるところ、前記のとおり、原告は将来就労が全く不可能なのであるから、右金一二七九万二七四〇円の全額が即ち逸失利益となる。

(c) 付添費 金二六七万四三九六円

原告は、前記後遺症のため終生付添人の介助を必要とするところ、現在においては、原告の父(当四〇歳)が原告の世話をしているが、原告の父の死亡により、原告の世話をすることが不能となった場合には、当然職業的付添婦を必要とするところ、厚生省大臣官房統計調査部編の「第一二回生命表」によると、原告の父の平均余命は三一・七三年であって、そのとき、原告は四二歳であり、また、事故当時における原告の平均余命は六七・七四歳であるから、原告の父の死亡時における原告の余命年数は二五年である。そして、右の付添費は少くとも一日金一〇〇〇円であるので、年間金三六万五〇〇〇円を要するところ、右二五年間の付添費をホフマン式年別計算法により、年五分の中間利息を控除して本件事故当時の現価を求めると、金二六七万四三九六円になる。

(d) 慰藉料 金三〇〇万円

原告は、本件傷害により、多大の精神的・肉体的苦痛を受けたところ、右苦痛を金銭で慰藉するには、金三〇〇万円の支払が必要である。

(e) 従って、原告の蒙った損害は、以上合計金一八四六万七一三六円である。

(ホ)  以上の次第で、原告は被告に対し、右損害合計金一八四六万七一三六円、およびこれに対する昭和四四年八月五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(2)  被告

(イ)  原告主張の右事実は、その内、(イ)と(ロ)の事実は認めるが、(ハ)の事実は否認し、(ニ)の事実は不知である。

(ロ)(a)  ところで、防護柵を設置する場合の基準については、建設省道路局長通達(昭和四二年一二月二五日付建設省道路局企画課発第三号)に定められているが、右通達によると、防護柵の高さの基準は、路面より六〇センチメートルとされているところ、本件防護柵は、路面からの高さが六五センチメートルであって、右基準を越えており、その高さの点においては、何ら瑕疵がない。

(b) また、昭和四〇年に本件防護柵が設置されてからは、本件道路を通常に通行する人が、本件防護柵を越えて本件高校の校庭に転落する危険はなくなり、本件防護柵の設置以後、現在に至るまで、通常の通行人の転落事故は絶えてなかった。原告が本件事故現場から転落したのは、通常の通行をしていて転落したのではなく、本件防護柵に寄りかかり、しかも、後にそりくり返るとか、本件防護柵の上に腰かけるとか、通常予想し得ない異常な動作をして、自らそのバランスを失い、転落したものである。

(c) 元来、被告としては、本件道路につき、道路の目的からして、人または車両が通常に通行するに際し発生する危険を防止すれば、必要且つ十分な管理をしていたわけであって、原告のような通常予想し得ない異常な動作をする者があることまでを予想して、本件道路を管理する必要はない。

結局、被告においては、本件防護柵を含めて、本件道路の管理につき、何らの瑕疵がなかったから、本件事故に関し、国家賠償法第二条第一項による責任を負うべきいわれはないといわなければならない。

(ハ)  よって、原告の請求は失当である。

(三)  当事者の立証≪省略≫

理由

(一)  原告主張の事実の内、(イ)と(ロ)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  そこで、本件事故が本件道路の管理につき瑕疵があったために発生したものであるか否かについて検討するに、≪証拠省略≫を総合すると、

(1)  本件道路は、本件事故当時、幅員約三メートル余りで東西に延び、本件道路と本件高校の校庭を画する略々垂直の高さ約四メートルの壁面は、本件高校のコンクリート塀(以下本件コンクリート塀と称する)が、その擁壁の役割を果していたのであり、本件防護柵は、本件道路の南端に沿って、二メートル間隔に立てられた高さ八〇センチメートルのブロック柱に、本件道路の路面と平行に二本の鉄パイプが通されており、右路面から上段の鉄パイプまでの高さは、六五センチメートルであったこと

(2)  本件道路の路面は、昭和三五年ごろにおいては、本件事故当時の路面よりも、少くとも約二メートル低く、本件コンクリート塀が本件道路と本件高校の校庭との仕切りとなり、文字通り、塀の役割を果していたが、その後、土砂の流動、本件道路の舗装化等による数回の道路工事等のため、本件道路の路面が次第に高くなり、本件コンクリート塀と略々同一の高さにまでなったため、人が本件道路から本件コンクリート塀を越えて転落する危険が発生し、現に少くとも昭和三七年以降、本件現場付近で子供の転落事故が続出し、昭和三九年八月にも、女児が本件コンクリート塀から転落して、大怪我をする事故が発生するに至り、ここにおいて、初めて、被告は本件防護柵を設置したが、その後も、本件事故が発生するまでの間に、子供並びに大人の転落事故が各一件発生したこと

(3)  建設省道路局長通達(昭和四二年一二月二五日付建設省道路局企画課発第三号)に定められている防護柵の高さの基準は、路面から鉄パイプまでの高さが六〇センチメートルとされているところ、本件防護柵の高さは六五センチメートルであったので、右の基準以上ではあったけれども、右の基準は、主として車両の路外逸脱防止という観点から設けられており、人が路面から転落するのを防止するという観点からの配慮は払われておらず、従って、右基準は、人の転落防止のための防護柵の高さの基準とはなり得ないのであり、本件防護柵も、交通安全対策という観点から設置されていて、人の転落防止という観点からは、却って、子供がもたれるのに丁度適当な高さであり、また、鉄パイプは丸味を帯びていて、しかも、スプリングのような弾力性を有し、子供にとって、腰かけたり、鉄棒代りにするなど恰好な遊び道具となり得るものであるうえ、子供が本件防護柵にもたれ、あるいは、腰かけるなどして、遊んだ場合に、その体のバランスを失い、本件高校の校庭に転落し易い構造となっているのであって、前記転落事故の殆ど全部が、子供の遊戯中の事故であり、本件事故も、原告が本件防護柵に腰かけていて、体のバランスを失い、本件高校の校庭に転落したものであること

(4)  本件事故現場付近は、住宅が建ち並び、道幅が比較的狭いため、昼間は車両の通行量も少いことも手伝って、自然に本件道路が付近居住の子供らの遊び場所となり、本件防護柵は子供の遊び道具の一つとなっていたものであって、右子供達の親は、その子供らが本件防護柵で遊ぶことについては、落転の危険があったため、各々子供達に「本件防護柵で遊ばないように」と再三再四注意していたが、前記のとおり、他に適当な遊び場所がないことなどもあって、その注意は一向に利き目がなかったこと

(5)  本件高校から被告に対し、本件道路の路面が約二メートルも高くなり、その重庄による本件コンクリート塀倒壊の危険防止に加えて、本件道路に面する住民の災害防止のために、本件道路等の実情調査並びにその善処方を要望する旨の申入を昭和三七年、昭和三九年、昭和四一年の三回にわたりなしていたが、被告は、本件防護柵の設置以外には、その危険防止策を絶えて講ずることなく、本件事故発生後において、本件高校の設置者である兵庫県において、人の転落防止のために、本件コンクリート塀の上に金網を張り、万全の防護策を採るに至ったこと

の各事実が認められる。右認定を覆すに足る資料はない。

しかし、本件事故現場付近の住民から被告に対し、本件事故以前に、転落防止のための完全な防護柵を設置するように陳情がなされたとの事実については、原告法定代理人本人尋問の結果以外には、これに副う資料がなく、右本人尋問の結果は、前掲各証拠に照して、たやすく措信し難い。

以上認定のとおり、本件道路は、人並びに車両の通行が本来の目的であったことは当然であるが、現実には、遊び場所がないなどの周囲の状況により、付近居住の子供らの遊び場所になっていたのであり、それら遊戯中の子供の転落事故の危険が極めて高い道路状況にあったのであるから、被告としては、高い金網を張るなどして、子供らの転落事故を防止するための措置を講ずべきであったにもかかわらず、車両の転落事故の防止という観点から、本件防護柵を設けたのみで、他に何らの安全対策を講ずることなく、却って、本件防護柵は、それ自体、子供の恰好の遊び道具となり、転落事故を誘発し易い構造を有していたものであること、前記のとおりであるから、子供らが危険を顧みることなく、本件防護柵にもたれるなどして、遊ぶことは、通常予想し得られるところであって、本件防護柵設置以後も、子供らが転落するという状態であったのであり、しかも、被告は本件事故発生以前に、本件高校から本件道路の危険性を三回にわたり指摘されていたことなどを総合勘案すると、被告としては、本件道路の管理について瑕疵があったという外なく、且つ本件事故は右瑕疵によって発生したものといわざるを得ない。

そうすると、被告は原告に対し、国家賠償法第二条第一項に基づき、本件事故により原告が蒙った損害を賠償すべき義務があるということになる。

(三)  損害

(1)  本件傷害の程度などについて

≪証拠省略≫を総合すると、原告は、本件傷害のため、個人病院に約二ヶ月入院し、頭部の骨片の摘出手術等の治療を受け、その後、同病院および神戸大学医学部付属病院精神神経科に通院治療を受け、現在も治療中であるが、本件傷害により受けた左側頭葉の脳損傷は完治せず、頭部外傷(第Ⅲ型)後遺症が存していて、本件事故以前は、その性格、知能等に特に異常がなかったにもかかわらず、現在においては、学校の成績は殆ど零点であって、通知簿のそれも殆ど最下級であり、日常生活上においても、突然に怒り出して、物を投げつけるなど、非常に粗暴であって、痴呆症状や、著しい性格変化が現われ、右症状、性格変化等は将来治癒される見込みが余りなく、今後、余程適切な養育や訓練をするとともに、治療的配慮がなければ、社会的に到底適応してゆけず、自分で働いて生活の糧を得ることは、極めて困難であるけれども、他方、原告は、現在、所謂特殊学級ではなく、普通の小学校に通学して、学業は前記のとおりであるが、とにかく、通常の集団生活を送っていることが窺われ、家庭においても、粗暴な点などがあるが、その取扱い如何によっては、一応家族の者にもなじみ、比較的平穏な生活を送っていることが認められ、右認定を覆すに足る資料はない。以上の認定からすれば、原告は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないものというべきであるが、社会的適応性を少しでも回復するためには、行き届いた種々の指導等が必要であるとはいうものの、常に介護を要する程身体的に重大な障害は存しないというべきである。

従って、右後遺症は自動車損害賠償保障法施行令別表の第三級第三号の「精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの」に該当するといわなければならない。

(2)  逸失利益

原告は本件事故当時、健康な男子で満六歳であったこと、前記のとおりであるから、運輸省自動車局保障課作成の「政府の自動車損害賠償保障事業損害査定基準」による就労可能年数が五七年であることに照らしてみても、原告の就労可能年数を、原告主張のように、その二〇歳から六〇歳に至るまでの四〇年間とするのは、不当ではなく、そのホフマン係数(小数点第四位以下は切捨て)は一四年先が一〇・四〇九、五四年先が二五・八〇五である。

次に、≪証拠省略≫と、第六号証(労働省大臣官房労働統計調査部賃金統計課作成「昭和四四年賃金構造基本統計調査報告」)によると、昭和四四年当時の全産業男子労働者一人当りの平均月間賃金は金五万八〇〇〇円、平均年間賃金は金六九万六〇〇〇円、全産業労働者一人当りの平均年間賞与その他の特別給与額は金一三万四九〇〇円であって、結局、全産業男子労働者一人当りの平均年間の総賃金は、少くとも金八三万九〇〇円であることが認められる。

そこで、前記自動車損害賠償保障法施行令別表の第三級は、労働省労働基準局長通達(昭和三二・七・二基発第五五一号)「労働能力喪失率表」によると、その労働能力喪失率は一〇〇パーセントであるから、原告の逸失利益は、右年間総賃金の四〇年間分(二〇歳から六〇歳に至るまでの間)から、ホフマン式年別計算法により、年五分の割合の中間利息を控除して、本件事故当時の現価を求めると、金八三万九〇〇円×(二五・八〇五-一〇・四〇九)=金一二七九万二五三六円となる。

(3)  付添費

原告は、前記認定のとおり、常に介護を要する程には身体的に重大な障害はなく、現に、ある程度小学生なりの集団生活に参加していて、その限りにおいては、正常な子供と大差があるわけでもなく、原告の父が死亡するまでには、厚生省大臣官房統計調査部編「第一二回生命表」によると、三三・五四年あり、そのとき、原告が労務に服することができないであろうということは、現在においても認め得ること、前記のとおりであるが、原告が父の死亡後において、職業的付添婦の世話を要するということについては、少くとも現段階においては、これを予想し得るに足る資料が十分ではないから、原告主張のような付添費支弁の必要性は、現在のところ確認し難いといわなければならない。

(4)  慰藉料

原告が本件事故により多大の肉体的および精神的苦痛を受けたことは、自明であるところ、原告の本件傷害の後遺症の程度が、前記認定のようなものであること、本件事故現場で幼児の転落事故が続発していたにもかかわらず、その防止策を講ずることなく、放置しておいた被告の責任の重大性など、本件における当事者双方の前記認定の一切の事情を考慮すると、原告の右苦痛を金銭的賠償によって慰藉するには、金三〇〇万円の支払が相当であると考えられる。

(四)  以上の次第で、原告の本訴請求は、被告に対し逸失利益金一二七九万二五三六円と、慰藉料金三〇〇万円との合計金一五七九万二五三六円、およびこれに対する本件不法行為日の翌日である昭和四四年八月五日から支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるから、これを認容するけれども、その余は失当であるから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 坂上弘 裁判官 塩田武夫 宮崎公男)

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